励軍第二十三
この章のポイント(3行サマリー)
- メンバーに最高のパフォーマンスを求めるなら、リーダーはまず、自らが彼らと「同じ釜の飯を食う」覚悟を示さねばならない。
- 冬の寒さも、夏の暑さも、泥濘での労苦も、空腹の辛さも、全てを分かち合う。
- この「苦楽を共にする」姿勢こそが、メンバーの心を打ち、彼らを自発的な行動へと駆り立てる、最強の動機付けとなるのだ。
古典原文(書き下し文)
古典に興味のある方向け
重要キーワード解説
📜 励軍(れいぐん)
軍隊を励まし、その士気を高めること。メンバーのモチベーションを最大限に引き出すためのリーダーシップ術。
📜 メンバーの士気を高めるための
メンバーの士気を高めるための、三つのリーダーシップのあり方。「礼将」「力将」「止欲将」。
📜 リーダーがメンバーと
リーダーがメンバーと、あらゆる困難や喜びを分かち合うこと。共感と率先垂範の重要性を示す。
現代語訳
武王が太公望に尋ねた。「私は三軍の兵士たちに、城を攻める際には争って先に登り、野戦では争って先に赴き、退却の鐘の音を聞けば怒り、進撃の太鼓の音を聞けば喜ぶようにさせたいと思うが、どうすればよいか。」太公望は答えた。
現代に活かすための「原理原則」
「共感的リーダーシップ」(感情の共有)
太公望が説く三つの将軍像は、現代のサーバント・リーダーシップの核心を表している。リーダーが部下と同じ困難を体験し、同じ感情を共有することで、真の共感が生まれる。これは単なる理解ではなく、身体的・感情的な体験の共有である。現代の経営においても、経営陣がオフィスワーカーの現場を体験したり、顧客と同じ立場で商品を使用したりすることで、より効果的な意思決定が可能となる。
「率先垂範の力」(リーダーが先頭に立つ)
「隘路を出て、泥道を行くとき、将軍が必ず先に降りて歩く」という力将の姿勢は、現代のリーダーシップにおける率先垂範の重要性を示している。困難な状況で部下に指示を出すのではなく、自らが最初にその困難に立ち向かう姿勢が、組織全体の士気と信頼を高める。現代でも、変革期や危機的状況において、リーダーが自ら先頭に立って行動することの重要性は変わらない。
「自己犠牲的な献身」(欲求の抑制)
止欲将の概念は、リーダーが個人的な快適さや利益を後回しにし、組織全体の利益を優先する姿勢を表している。これは現代のESG経営やステークホルダー資本主義における考え方と合致する。短期的な利益や個人的な快適さよりも、長期的な組織の発展と構成員の幸福を重視する姿勢である。
「内発的動機の創出」(自発的な行動を促す)
兵士たちが「争って先に登る」「争って先に赴く」という自発的な行動は、リーダーの共感的な姿勢によって生まれる内発的動機の結果である。これは現代の組織心理学における自己決定理論と合致する。外的な報酬や罰則ではなく、リーダーとの信頼関係と共感から生まれる内発的な動機が、最も持続的で効果的な行動の源泉となる。
「文化的な影響力」(組織文化の醸成)
三つの将軍像は、組織文化の形成におけるリーダーの役割を示している。リーダーの行動様式が組織全体の価値観と行動パターンを決定し、それが組織の成果に直結する。現代の企業文化や組織風土の形成においても、経営陣の日常的な行動と価値観が組織全体に与える影響は計り知れない。