六韜 第21章

立将第二十一

この章のポイント(3行サマリー)

  • リーダーを任命するということは、その成功の全権限と、失敗の全責任を、その人物に託すという覚悟の表明である。
  • 「これより上、天に至るまで、将軍之を制せよ」。
  • 一度任せると決めたなら、現場の判断に口出しをしてはならない。
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古典原文(書き下し文)

古典に興味のある方向け

重要キーワード解説

📜 立将(りっしょう)

将軍を任命すること。組織のリーダーやプロジェクトの責任者を任命する、極めて重要な儀式。

📜 まさかり

まさかり。古代中国において、軍の指揮権の象徴とされた。リーダーに与えられる絶対的な権限の比喩。

📜 現場の指揮は

現場の指揮は、本部にいる者が口出しすべきではない、という原則。権限移譲の重要性を示す。

現代語訳

武王が太公望に尋ねた。「将軍を任命する道はどのようなものか。」太公望は答えた。

...(省略)
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現代に活かすための「原理原則」

「絶対的権限移譲」(天と地の間の全権)

太公望が示した任命の儀式は、現代の権限移譲(delegation)の究極形である。「これより上、天に至るまで」「これより下、淵に至るまで」という表現は、現場の責任者に対する完全な信頼と権限の委譲を意味する。現代の組織においても、プロジェクトリーダーや部門責任者に対する明確な権限範囲の設定と、その範囲内での完全な自由度の保証が成功の鍵となる。

「覚悟の相互確認」(命をかけた契約)

君主と将軍の間で交わされる厳粛な約束は、現代の経営における重要な意思決定プロセスに通じる。「生きて帰ることを敢えて望みません」という将軍の決意と、「君主もまた一言の命令を臣にお与えください」という相互の確認は、責任の所在を明確にし、後戻りできない決意を示している。

「現場主義の原則」(軍は中より御すべからず)

「軍は内部から制御すべきではない」という原則は、現代のマネジメント理論における現場主義の核心である。本部や上司が現場の細かな判断に介入することは、かえって組織の効率性を損なう。現場の責任者に必要な情報と権限を与えた上で、その判断に任せることが重要である。

「完全な信頼関係」(二心有ること無し)

組織の成功には、リーダーとメンバー間の完全な信頼関係が不可欠である。疑いや迷いがあると、迅速な意思決定や一致団結した行動が困難になる。この信頼関係は、明確な責任分担と権限の委譲によって構築される。

「結果責任の明確化」(外に戦勝ち、内に功立つ)

権限を委譲する以上、その結果に対する責任も明確でなければならない。成功すれば組織全体が恩恵を受け、失敗すれば責任者が全てを負う。この明確な責任体系があることで、組織のメンバーは安心して最大限の力を発揮することができる。

現代への問いかけ

1. あなたは部下やチームメンバーに対して、明確な権限範囲を設定し、その範囲内での完全な自由度を保証していますか?

2. 重要な決定を下す際、責任の所在を明確にし、後戻りできない覚悟を持って臨んでいますか?

3. 現場の判断に対して、適切な距離を保ち、不必要な介入を避けることができていますか?

4. 組織内での信頼関係を築くために、疑いや迷いを排除し、一致団結した行動を促進していますか?

5. 権限を委譲する際、それに伴う結果責任を明確にし、成功と失敗の両方に対する覚悟を示していますか?

【応用編】この「立将第二十一」の教えを、現代でどう活かすか?

この章で学んだ知恵は、現代の様々な場面で応用できます。興味のある分野の記事を読んで、具体的な活用法を学びましょう。