六韜 第17章

三疑第十七

この章のポイント(3行サマリー)

  • 格上の相手を打ち負かすには、正面からのぶつかり合いは避けなければならない。
  • 相手をさらに傲慢にさせ、その油断を誘う。
  • そして、相手が最も大切にするものを利用して、内部から切り崩していく。
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古典原文(書き下し文)

古典に興味のある方向け

重要キーワード解説

📜 三疑(さんぎ)

事を起こす際にリーダーが抱く三つのためらい。戦力差、内部の結束、メンバーの離反。

📜 強大な相手を攻めるには

強大な相手を攻めるには、相手をさらに増長させ、その傲慢さや油断を利用するという逆説的な戦術。

📜 リーダーの真心やビジョンが

リーダーの真心やビジョンが、人々の知恵や創造性を引き出し、それが富を生み、さらに多くの人々を惹きつけるという、好循環のプロセス。

現代語訳

武王が太公望に尋ねた。「私は功績を立てたいと思うが、三つの疑いがある。力で強敵を攻めることができず、味方を離反させ、兵を離散させることを恐れている。

...(省略)
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現代に活かすための「原理原則」

「強者の自滅誘導」(相手の強さを利用する)

太公望は「強敵を攻めるには、必ずこれを養って強くさせる」と教えた。これは格上の相手に対する逆説的なアプローチである。直接対決を避け、相手の傲慢さや過信を助長させ、自滅へと導く戦略。現代のビジネスにおいても、競合他社の過度な拡大や無謀な投資を促し、自ら破綻するのを待つという手法がある。

「内部分裂の技術」(組織の結束を崩す)

相手の内部に対立や不信を生み出し、組織の結束力を弱める手法が詳述されている。これは現代の組織心理学における離職要因の研究とも合致する。優秀な人材の引き抜き、内部競争の激化、情報の非対称性の創出など、様々な手法で相手組織の内部結束を弱めることができる。

「段階的な影響力構築」(心→智→財→衆→賢)

太公望は「心で智を啓き、智で財を啓き、財で衆を啓き、衆で賢を啓く」という段階的な影響力構築プロセスを示した。これは現代のコミュニティビルディングやネットワーク構築の理論と一致する。個人の真心から始まり、知恵を集め、資源を蓄積し、多くの人々を集め、最終的に優秀な人材を獲得する流れである。

「弱者の戦略論」(劣勢からの逆転)

三つの疑い(力不足、離反の恐れ、離散の恐れ)は、すべて弱者が抱く典型的な不安である。太公望はこれらの不安を逆手に取り、弱者だからこそ可能な戦略を提示した。強者の慢心を利用し、内部工作を行い、民心を掌握するという、弱者ならではの戦略である。

「秘密主義の重要性」(情報の管理と制御)

「謀の道は、周到で秘密であることを宝とする」という教えは、現代の情報セキュリティや戦略的コミュニケーションの基本である。自分の真意や計画を隠し、相手には必要な情報だけを与える。情報の非対称性を維持することが戦略的優位の源泉となる。

現代への問いかけ

1. 格上の競合他社に対して、直接対決を避け、相手の弱点や過信を利用した間接的な戦略を立てることができていますか?

2. 相手組織の内部結束を分析し、その弱点を見つけて適切に対処する能力を持っていますか?

3. 個人の真心から始まる段階的な影響力構築のプロセスを理解し、実践できていますか?

4. 弱者の立場にある時、その劣勢を逆手に取った創造的な戦略を考案できていますか?

5. 自分の戦略や計画について、適切な秘密保持を行い、情報の管理と制御を効果的に行えていますか?

【応用編】この「三疑第十七」の教えを、現代でどう活かすか?

この章で学んだ知恵は、現代の様々な場面で応用できます。興味のある分野の記事を読んで、具体的な活用法を学びましょう。